パンは外で食べるためにできている。硬い表面は落としても割れないように、柔らかい内側は目の前を行き交う人の心の内がそうであることを示唆している。またパンを食べているし、まだここに書いている、惰性。
駅を降りて2本ある商店街の左側を入っていくといつもパンを買っている店の本店がある。午前中は自宅でサービスのUI改善の打ち合わせと、打ち合わせの時間を間違えた3人による雑談をしていたので、シェアオフィスのある駅に着いたのが昼時だったので、その本店でパンを買った。ここは普通な声で話せばレジ袋をもらえる優良店(レジ袋が有料ということと掛かっている)。
商店街を抜けた交差点で、観光で来たであろう40〜50代くらいの女性数名が「見て見て、こんなに海が近いなんて!知らなかった!」とマスク越しに声をあげているので、駅名に「海」って入ってんだから近いし、標高高いんだから海見えるに決まってんじゃん、と思いながら、パンをレジ袋に入れて持った私は彼女たちの指差す方から海に出ることにした。シェアオフィスに向かうには少し遠回りである。
駅から最短距離で海にでる坂道はビーチにつながっているが、「夏に向けて整備中です☀︎」という絵文字付きの立て看板が立ち入りを禁止していた。そのせいで周りには時期的にも状況的にもいま一歩夏になりきれない人たちがいる。無理矢理、ほぼ通路のようなところでサンオイルを塗った男性のビキニあたりを、アオスジアゲハが飛んでいることに彼は気付いていない。
いつもの遊覧船が見えるベンチで天然酵母のクロワッサンをかじっていると、右からパンをちぎりながら、さながらヘンゼルとグレーテルのようにパンくずを落としていく男性が横切っていった。彼の通った道にはたくさんの鳩が群がっていて、私の目の前でも5〜6羽の鳩が白いパンをつついている。(注:私はパンくずは落としていない。) 彼が通り過ぎて、パンくずを食べ切った鳩も、その男性を見ていない人たちも、パンを食べている私が餌付けをしたと思うのは当たり前で、しばらく鳩とに囲まれながらパンを食べ続けていた。
少し買いすぎたかなと、食べずに残していたくるみパンを結局、甘いクリームチーズののったパンを食べた後に食べてしまった。午後の打ち合わせまであと30分の出来事である。