最終出社日。一番泣きそうになったのは午前中に銀座の街を歩きながらSpitzの『夏の魔物』をマスクの中で口パクした時だったのが良かった。沖堤(防)と掟(おきて)を掛けた歌詞が一番好きで。歌詞カードを見ていないので掛けているかなんて知らないのですが。
夕方、打ち合わせが終わるやいなや、17時から開店の行きつけの小料理屋に挨拶に行くとお酒を出されたのでちょっと遅れて戻った自身の送別会(お酒は飲んでないので会議か)。たくさんのお酒とレコードと花とパイナップルの子供とブリの切手と楽器と香りのする紙とソニーの偉い人の肖像が入ったお酒・缶バッチとお菓子とトム・ハンクスの小説と蚊取り線香入れと。定番の花束と。 先週泊まったMUJIホテルでもらった金券。使えるのが銀座店だけで。焦って買った薪を入れる鞄いっぱいに送別の品を詰めても溢れる状態で、今、帰りの東海道新幹線の3両目に乗っている。
昼ご飯の話を食べてすぐ書くことを日課としていたものの、退職の手続きやら、銀座のギャラリー巡りやらでテキストを打つ時間がなく。 まずまずの節目なものの、家族を残して外で楽しんでいる罪悪感から、銀座の民芸品を扱う店で家族分の箸を買う。この店の2代目だか3代目の店主はタッパのある金髪なのだけれども、しっかりと目利きをするようなので(話したことはもちろんないけれど)そっと通っていた。
この民芸店から少し新橋に行ったところにあるビルのフロア表示に「展望室」とあったことを思い出した。会社の後輩と昼ご飯のときにその表示を見つけて、殆どがスナックで昼間の静かなビルの8階くらいにあがったけれど、そこには展望できるようなスペースも屋上に続く扉も無くて。たまたま清掃にきていたおじさんに声を掛けられて「下で展望室の表示をみて上がってきたのです」と伝えると、「昔は他に高いビルも無くてここからの眺めがとても良かったが、どんどん高いビルが建ってしまったので展望室を閉めたのだよ」という話をされた。 きっとその清掃をしていたおじさんは私よりも長く銀座に勤めていて、たった数年務めただけでこんなに持って帰るのも正直おっくなくらいな品をもらったことをぼんやりと考えている。
この状況下でひっそりと飲食を共に出来たのは限られた人たちだったけれども、誰一人いつもどおり(飲み会が素直に開催できてきたころ比)変わらずにお酒を飲み切れたことに感謝と、何も変わっていないことにわずかばかりの危機感を覚えながら、新横浜駅にもうすぐ着く。
お世話になりました。