先週末に甘鯛釣りを指南もらった知人に近所の釣具屋の店員(下田さん)を紹介してもらった。来年はアカムツ釣りをしよう、ということで道具を揃えるべく(200mを超える深海から釣り上げるので道具が全く違う)、私のデザイン的な好みにあった道具をすでに店舗に(買うか買わないかはさておき)取り置きしてくれているという。早い。(買うか買わないかはさておき)午後、その下田さんを訪ねに行こうと思っている。
息子の幼稚園は冬休みだが、毎週火曜日の午後に通っている英会話教室が冬休み用にイレギュラーにクラスを開催しているので、それに息子を連れて行く。午前中だけ英語に預け、午後は幼稚園の友達とその母親たちとで遊ぶらしく、12時前くらいに妻は出掛けて行った。 今日、釣具屋に行くことも、新しく深海魚を釣る道具を買うことも伝えていない。車を使われないかだけ心配していたが、話しぶりから電車で向かうことはわかっていたし、車の鍵も家に置いてあった。まるで昼ごはんを食べに行くかのような様子で(昼ごはんくらい軽い気持ちで)車で向かう。 下田さんがいなかったら面倒だな、と思いつつも、電話が嫌いな私は確認せずに釣具屋まで10分ほど車を走らせる。エンジンをかけたタイミングで、昨日の夜に子供に片付けをさせるために流していた「おかたずけ」という歌がカーナビのBluetoothを介して流れる。家族にバレたような気がしてヒヤリとする。
人に紹介された人を探して会話するのが電話と同じくらい苦手。釣具屋に着く。人を訪ねにきたそぶりを見せないようにルアーを眺めながら、店内の店員の名札を確認するために棚の間を縫う。「下田」の文字はないし、平日の月曜日、お客も少なくほぼ全員がレジ内で楽しそうに雑談をしてしまっている。誰か一人でもレジの外に出てこないかともう一回りする。変化がない。仕方なくレジの少し遠いところから声を掛ける。遠いところから声を掛けることで1対1になるからだ。思惑通り、女性の店員が一人こちらにきて対応してくれた。下田さんがいるか尋ねると、ちょうど銀行に行くために出てしまったという。戻りは1時間後。ついていない。ヨコタが来たことだけは伝えるという。必要以上に長い時間過ごしてしまったので(いつか使うだろうという程度の)ラインを買った。
13時過ぎ、すっかり昼ごはんの時間になってしまった。夕方から熱海のシェアオフィスに用事があるため、車を家に置き、歩いて駅に向かう。さっと済まそうと駅の近くにある蕎麦屋に寄って行くことにした。 月曜日の日替わりセットは「たまご丼と蕎麦・うどん(冷・温)」。それに引っ張られたのか、「かき玉(冬季限定)」を注文する。メニューを伝え、大盛りと付け加えるが、私の「大盛りで」と店員の「蕎麦、うどん?」が被った。何事もなかったように私が蕎麦でと伝えると「かき玉、蕎麦、大盛りですね。」と、確認されて安心した。 あんかけの中に溶き卵が浮かぶ。七味ではなく、すりおろした生姜が出てきた。マスク越しでも生姜の香りがする。熱い。熱くて噛まずに飲み込んでしまう。右手で蕎麦を数本持ち上げ、左手で開いている本を読む。永井玲衣さんの『水中の哲学者たち』の56ページあたりが開かれている。 後ろで何か同じ組織に所属する男性と女性が会話している。男性が上司のよう。一方的にああした方がいい、こうした方がいいと話し続けている。会話の締めに入ろうというタイミングで「色々あったんだろうけど」という言葉が何気なく使われる。自分の周りには「色々あったんだろうけど」と言う人がいないのか、そもそも会話が苦手で受ける機会が少ないのか、それでも久々に聞いたな、と思う。 蕎麦は熱いまま。ためしに「あん」の部分だけレンゲですすってみると熱くないのには驚いた。