割り箸で持ち上げた瞬間、少し薄くなったかな?と思いながら齧りついた半円形の断面から、細い骨が20本くらい生えている。口に残る感じはないので、本当に細い骨。穴子。穴子天丼(1,320円)。前はお重からはみ出していたような気がするし、メニュー写真もはみ出しているけど、長方形のお重の幅に合うように切られた穴子。それでも1匹分くらい乗ってるだろうか。もう店内は私しかいない。
入店したのは12時20分くらい。この店は混んでくると外の看板を「CLOSE」にするので、「OPEN」となっていた今日は空いてるだろうと思いながら、自動ドアの縦長ボタンを押すと目の前のカウンターには誰も座っていないし、店員の姿も見当たらない。右手の小上がりから声が聞こえる。女性客2人組。店員の姿だけでなく声も聞こえないが、ここの店員が物静かで、お客の入店に気付かないことは知っている。入り口に対して一番奥、厨房の入り口に近づく。軽く覗く。店員がいる。こんにちはと声をかけて、一名であることを伝えて、また入り口の方に戻る。カウンターの角、一番入り口に近いところに座った。
メニューはほとんど把握している。揚げ場は小上がりの奥にあって、座った席から一番遠い。そして、揚げ物をすると油の匂いが逃げないのも知っている。せっかく一番遠くに座ったので、天丼にした。穴子天丼。文章を書いている今、18時過ぎは雨が降り出しているが、昼間は晴れて暑かった。穴子は夏のイメージがあるけど旬だろうか、なんて思いながら、佐々木敦の『「書くこと」の哲学』を読みながら待つ。湯呑みには水が入っている。家を出るときに郵便受けにはHEADZから『佐々木敦による保坂和志(仮)』が届いていたのを確認している。著書を読むたびに、授業でもっと色々学べたのではと思うが、AnticonのSubtleとかを聞くようになったのは授業のおかげ。でも、ほんとに授業で紹介してただろうか。文字にすると不安になる。
そして、運ばれてきた穴子天丼の一口目が最初の段落。タレのかかり具合が、思っていた具合より少し少なく感じて、刺激を足そうと一緒に運ばれてきた瓢箪型の容器の先端にある蓋を外す。山椒がいいのだけど、まあ七味だろう。やはり七味。穴子の下にかぼちゃ。ころもが剥がれないようずるずると引き出す。何か打ち合わせ終わりのような会社員6人が入店。小上がりに通される。女性が持ち込んだ白いキャリーバッグが、店のダイキンの空気清浄機と色形が似ている。穴子の下には鱚もいた。
お重の端々に残った少し茶色い米粒を一箇所に集めるときに、割り箸がお重の底にあたってなる音が包丁が木製のまな板に当たる音に似ている。食後にコーヒーとアイスキャンディーのサービス。先月、妻と来た時、「暑い、アイス出ないのかな」と言われたが、きっとここの人は気温じゃなくて期間、7月から出すような人だと話した通り。7月10日の今日はアイスキャンディーがサービスされた。