この文章もstoneで書いている。仕事について、画像と制作者クレジットで淡々とやるのも(掲出される情報量が)ミニマムで好みではあるが、他の日記と同じように文章主体で展開されるのもまた(表出る形式が)ミニマムでいいのでは。そう思って、最初の仕事紹介、この文章を書いている。
stoneはmacOS向けのテキストエディタとして、企画・デザインされたアプリケーション。2017年12月に日本デザインセンターからリリースされた。メンバーは私と、グラフィックデザイナーの北本君、コピーライターの蓮見さんが初期メンバー。エンジニアは外部の木下さん。リリース後はプロデューサーの曽根さんや、他ライターなどが参画。2017年リリースだから、企画は2015年くらいからやってるはず。10年近い。ので、ちょっと記憶が曖昧で間違っているかも。私がデザインセンターを退職した後、iPad向けのstoneがリリースされたり、テキストのレンダリングエンジン、プログラムの一部がオープンソースとして公開されたりしている。
2015年くらいに、「IoT」とか「スタートアップ」みたいなキーワードが目立っていたのだろう。社内でもクライアントワーク以外のやり方を模索する動きがあって。何人かのデザイナーが呼び出され、3チームに別れ、企画立案をするプロジェクトが発足した。そのうちの1チームが私と北本君と蓮見さん。なぜ呼ばれたのかも、この組み合わせなのかも覚えてない。まあ、私はウェブデザイナーだから、何となくITに強いと思われたんだろう。stoneの企画が浮かぶまで、1年くらいずっとアイデア100本ノックみたいな状態だったのは覚えている。実現性に欠ける案、デザインセンターがやる理由のない案、収益性の見込めない案。頭の使う部分が全然違う感じがしたし、(のち退職してしまうように)愛社精神を欠く私には月一の会議が苦だったな。
テキストエディタを思いつく直前のアイデアは覚えていて。北本君が「ウェブサイトや電光掲示板の汚い文字組みを綺麗にするなにか」が欲しいという。ブラウザのアドオンなどで実現はできそうだけど、掲示板は難しいし、会社でやる規模ではないみたいな話をした気がする。そう、そのタイミングで別チームだった有馬君と話してて、読む側じゃなくても書く方も可能性あるのでは、みたいなことをさらっと言われた気がしてきた。そう、12階の12B会議室で。ガラス張りの。確か。それで、私が昔、文学フリマに出すために処女小説を書いたことを思い出したんだ。
私が初めて、まともに文章を書いたのが2011年。まともにっていうのは、ある程度の長文。1〜2万字くらい書いたのかな。まだ文学フリマ東京の会場が蒲田(大田区産業プラザPiO)で。友人知人9名が「京急蒲田処女小説文藝大賞」という賞に応募したという想定の企画ブース。普段、本は殆ど読んでなかった。取っ掛かりがなくて、友達に勧められた保坂和志の『書きあぐねている人のための小説入門』を読んで、MacBook Proを開いてメモアプリに向かって。全然書けない。打った文字が文字としてそこにある感じ。なんの修飾もされず。自分の文章と正面から対峙する厳しさ。完全に書きあぐねる。
趣味に関しては見た目や形から入るタイプ。とりあえず、最終形態の本の方からも進めようと、InDesignで判型とかレイアウトを決めていって。もう原稿もMacのメモではなくて、レイアウトに直書きすればいいと。これがよかった。縦書き、(ウェブデザイナーなので見よう見まねで)設定された組版。文字の生っぽさがなくて、最初の一行がすっとビジュアル的に決まる感じ。
そのとき私が感じた「書き出しの心地よさ」があるテキストエディタなら、他アプリとの差別化もできるし、デザインセンターが作る意味が大きい、と。社内のノウハウがIT的なものと組み合わさる感じを役員も感じ取って、満場一致、だったかどうかは覚えてないけど、好評で、制作に進むことができた。
ここで、1650文字。ようやく制作に着手したのです…で。制作ストーリーの記事とかをまとめるライターはホントすごいな。要約すると「stoneのきっかけは文学フリマだったのです」しか書けてない。まあ、stoneに関しては現在も購入できるアプリなので、なぜ制作に至ったか、が書けていれば良い気もしてきた。デザインや機能はstoneのサイトを見て貰えばよいし。
ちなみに、制作の主な分担としては、グラフィックデザイナーの北本君が画面レイアウト、私が機能や使い心地を考えていたはず。「書き出しの心地よさ」を体現するために、紙とインクをモチーフにして、機能もそれに近づけるためにプレーンテキストというフォーマットでできることに限定したり。まあ、地獄のアイデア100本ノックも喉元過ぎれば。実制作は楽しいもんです。
デザインセンターを退職してしばらくはstoneのデバッグを(日記を書くことで)手伝っていたけど、ぼんやりと抜けてしまった。タイプライターモードを追加したかったり、細々とした改善を入れたいという気持ちがあるので、またぼんやりと手伝うか、オープンソース化されたようなので、stone2を作るのもいいのかもしれない。まあ、多分、作らないけど。