11:40。いつもの町中華に向かう商店街。きゅっ、ひゃっ。子供の音がなる靴みたいな音が前から聞こえる。子供は見当たらない。耳と目で音の出を探す。女性のコーデュロイパンツ。ダークグレーで少し太めのシルエット。歩くたびに擦れ合い音が出ていた。今日は夜、都内で会食がある。きのこチャーハンが食べたかったが量が多いので、汁なし担々麺にしよう。入り口の日替わりメニューも見ず、自動ドアを見ると「支度中」と縦書きで書かれた板。40cmくらいある。メニューは出てるから準備がまだなのだろう。近くのATMで現金を下ろしてくることにする。
まだ、支度中。板を裏返し忘れたのかと思って、自動ドアに近づいて開ける。縦長の店内。中は満席。奥にいる店のおばちゃんが左手を手刀のようにして、ごめんと伝えてきた。右手には客に出すウーロン茶。どのテーブルにも料理は出ていない。一斉に入ったのか?満席なのに話してる人はいなくて、妙に静か。テーブルと人が並んでいるだけの店内。少し不気味。
13:00から定例ミーティングがあるので迷っていられない。同じ並びにあるベトナム料理屋の階段を上がる。YouTubeでベトナム音楽のプレイリストが流れる店内に入るにはオープンキッチンの横を通るが、誰もいない。窓際のテーブルに片付けられていない器が2つ。上のフロアにいるんだろう。クリスマスソング(と分かったのは「メリクリスマス」だけ英語だったから)の流れる店内をふらふらしながら、上にあがる階段を覗き込みながら待つ。2〜3分。そんなかかってないかもしれない。店員が降りてきた。窓際の席に座る。少し日が差し込む。「牛肉とタケノコのブン麺」。
運ばれてきたブン麺を少し日の当たる位置にずらす。渓流に木漏れ日が差して、川底の石が見えるように、スープの中の丸い麺がクリアに見えて気持ちがよい。水面に鼻を近づける。牛骨か何かの出汁の匂いか、少し癖のある香り。この店はセットの麺と単品の麺で量が違う。「牛肉とタケノコのブン麺」は単品しかない。片付けるとき、レンゲがスープに沈んでしまわないよう、箸と支え合うような具合にして席を立つ。想定していたよりも強い満腹感を抱えて店を出た。
日差しに向かって歩く。景色に濁り。メガネのレンズにスープが飛んでいることに気付く。郵便局員のスクーターが道を塞いで、うまく通れないおばさん。低く響く声で謝る郵便局員。100mくらい先のマンションに植木の葉。細かく、葉の枚数分、光が反射している。