カーブミラーに映る自分たち二人に気付いて、iPhoneを向けて自撮りをする女性たちは大学生くらいに見える。その湾曲の中に私と私の知らないおじいさんの褪せた青いキャップが映り込んでることは気にしないのだろうか。「#カーブミラー #熱海 #セルフィー」で検索してみてください。
今日は隣の駅にあるパン屋のイートインで読書をしながらランチをすまそうとシェアオフィスに向かう電車の中で決めていた。朝イチ(デザイナーのいう朝イチは10時)のミーティングだけ自宅ですましてきたので、簡単な連絡の返信だけしてパン屋に向かう。パン屋までは10分くらい歩くのだが、高低差が70メートルくらいある。iPhoneのヘルスケアアプリの階段換算で20階強。往復で40階。それでも到達しない都内タワマンの高さに驚愕する。
まばらにいる観光客とは違うスピードで歩いている途中で財布を忘れてきたことに気付いた。コットンのトートバッグが軽い。ペイペイかパスモが使えた気がする気だけを頼りに店の前まで行くと、休み。これが不定休か。しかたなく上ってきた20階分の標高を下り、イオンに入った。途中、行ったことのないパン屋があったが、行ったことがないので行かなかった。イオン内に併設されるベーカリーコーナーのレジを少し遠目から、パスモが使えるか、ペイペイが使えるか見定める。IDをタッチする白い機械に「WAON」の文字しか見えない。I DON’T HAVE WAON. 他の電子決済が使えるか聞くのも声の通らない私にとっては至難なので、手の消毒をしただけのかたちでイオンを出て、海の近くのローソンに向かった。 3歳になる息子はローソンのことを「ローソング」と呼ぶ。「グ」が余計なことは分かっているようだが、勢い余ると付いてしまうようだ。
適当なサンドイッチと適当な甘いデニッシュとキウイヨーグルトドリンクをパスモで買う。いつものヨットハーバーが見えるベンチに座って食べていると、隣にいた男女の周りを鳶が飛び回り、「鷹が怖い、鷹には勝てない。」と言いながらどこかへ行ってしまった。 私は彼らが鷹と呼ぶ鳶に関してはもう慣れている。右手に梅棹忠夫の『知的生産の技術』の文庫本を、左手に適当な甘いデニッシュを持っていて、素早くデニッシュをかじると梅棹忠夫の下に隠す。これを繰り返している。 デニッシュの無闇矢鱈な甘さにローソングのターゲットから外れていることを痛感した。